WORLD MARKETING SUMMIT JAPAN 2014

SUMMARY REPORT

テーマ 6. 企業のマーケティング力を高める

ディーパック・ジェイン(INSEAD 教授&ケロッグ経営大学院 元学長 現チュラロンコン大学(タイ)ビジネススクール 学長)
ジャグディッシュ・シェス(エモリー大学ビジネススクール 教授)
ウォルター・ヴィエラ(マーケティングアドバイザリーサービス社(インド)社長)

モデレーター
ローラ・ライズ(ライズ&ライズ社 共同経営者)

パネル・ディスカッション

ローラ: まず、「フォーカス」が自己破壊をもたらす可能性という点について考えてみたいと思います。例えば、IBMはメイン・フレームというハードでは強かったのですが、何が彼らを減速させたかというと、IBMという名前のまま、パーソナル・コンピュータ(PC)分野に参入したことでした。このように、「フォーカス」することで自己破壊に陥るかもしれないということについてどのようにお考えでしょうか?

シェス: 通常、危機が起きてから「フォーカス」について考えるようになります。例えば、A&Pという会社は地元密着のスーパーマーケットとして特定の市場で競争力がありました。Searsの場合は、マーチャンダイズ・グループとしてのブランド戦略を見直しました。当初は、いろいろなブランドで多角経営をやり、靴下から株までと言われていました。マーチャンダイズの事業のみならず、不動産、本の出版までもやっていました。しかし、それらを断念し結果的にマーチャンダイズの事業だけにしましたが、それでも更なるフォーカスが可能だったと思います。ジャーナリストからよく企業の悪い習慣は何ですかと聞かれますが、その一つは自分たちの社員の能力を最大限活用しないことだと思います。そのポテンシャルを発揮させず、能力も向上させないからです。

ローラ: 教育システムの話がありましたが、教授や企業は「親」の位置づけで、親が子供を育てているような役割があると思いました。真似をしてはいけない親や、また倫理的に良くないような親もいます。企業も同じだと思います。私たちは、次世代において良いマーケティングのための倫理を教えるにあたり、どのようなことができるでしょうか?

ジェイン: リーダーシップを教えるにあたっては、ただ、それを単純に教えるのではなく、リーダーシップが変化をもたらすという沢山の事例を模範を示すことだと思います。リーダーシップによって何かが変わるということを示す事は、ビジネスの倫理を教える時にも当てはまります。いろいろなビジネス・ケースを話し合う時、しっかりと倫理面についても触れるべきだと思います。また、今、危機管理が私どものコースで必修科目となっています。一番良いのはそれが起こらないようにする事ですが、親が子にアドバイスする時と同じように、それがどのような意味を含んでいるのか、しっかりと考えることです。私は学長として、教授として話すときに、それがしっかりとアクションにつながることを考えて話すようにしています。危機は社内で上手く対応ができていないと問題を大きくしてしまうことがあります。危機管理のような科目はきちんとカリキュラムに入れておくべきだと思います。

ローラ: 実際に危機が起きたときに致命傷となることがあります。適切に、正直にタイムリーに話す事が大事であり、デジタルの時代では1週間かけてどのように応えるかといった悠長なことは言っていられません。例えば、ツイッターの“つぶやき”が出まわるまでは数秒間しかありません。例えば、アップルのiOS8上で、現在多くのバグがでてきています。この問題にどのように対応していくかという課題に直面しています。また、特にアメリカでは消費者自身がメディアを使って、各企業に常に正直であり続けようとする力が働いています。また、メディアも企業の問題をすぐに見つけられるようにしています。消費者やソーシャルメディアの世界は、どのようにしたら企業に対して適切な行動を取らせることができるでしょうか?

ヴィエラ: ソーシャルメディアは非常に大きな役割を持っています。コストがかからないから広く使われるようになりましたが、私は政府の支援がとても重要だと思います。消費者保護の全体的な枠組みづくりです。香港やシンガポールが良い例です。香港やシンガポールではコンシューマー・ユニオンを政府がしっかりと支援しています。厳しい懲罰的な内容もあります。従って嘘をつくという意識はほとんど働きません。アメリカやイギリスではコンシューマー向けのレポートにもとづいたファンディング(資金作り)のシステムがしっかりとできています。コンシューマー・レポートを皆が読めますし、リタラシーも高いと思います。

ローラ: 最後に教育に戻ります。専門家が必要なのにもかかわらず、何故ゼネラリストに戻ってしまうような例が多いように思います。なぜ専門家になるということが教育界ではできないのでしょうか。

ジェイン: 両方の側面を見なければいけません。学生の立場からいうと、誰もがマーケティングのスペシャリストになろうとして入学したのではありません。そのような対象のセグメントをみても、それぞれ求める利益や目的に対する考えが違います。そしてそのセグメントに対して、それぞれのニーズを満たす教育を提供しなければならないと思います。その一方、これまで一般的な経営学の学位を付与する事が一般的でしたが、今は専門化された修士号を与える事がトレンドの一つになっています。MBAではありませんが、金融の修士などです。MBAとの違いは、ある一定の勤続経験のある人を入学させるということです。このような専門家が、例えば金融に関して単位をとり、上手くいけば、エグゼクティブのプログラムに入れるようにしています。トップのエグゼクティブ・コースに入りたいということであれば、そのようなコースもあります。つまり、ある事を深く追求してから、幅広く広がりを持って学ぶ事で完成させるのです。それがひとつの重要な事です。オスカーさんの発表では、「教育が違いを生み出す」というネルソン・マンデラ氏の言葉が紹介されました。我々教育者は、より広範な人々のニーズを満たさなければなりません。また、ウォルターさんの発表で、ある地域の「全く字が読めない人」、「半分読める人」、「教育を受けた人」という3つのセグメントの紹介がありました。やはり我々教育者としては、どうすれば識字率をもっと上げていけるか、このアジア諸国の識字率の問題にどうしたら貢献できるかを考えねばなりません。そのためには、まず基礎教育からはじめ、それから専門家の教育にいくことが必要だと思います。

ローラ: 有難うございました。いかに企業のマーケティング力を高めるか、良い議論ができました。教育の役割は極めて重要です。そして、成功におぼれず、落とし穴におちないようにしなければいけません。そして、正直さを維持するためには消費者や政府関係の団体も頼らねばなりません。みなさん、ありがとうございました。

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