WORLD MARKETING SUMMIT JAPAN 2014

SUMMARY REPORT

テーマ 3. 新興国市場で成功するためのマーケティング

ジャグディッシュ・シェス(エモリー大学ビジネススクール 教授)
ミルトン・コトラー(コトラー・マーケティング・グループ 会長)
ニルマルヤ・クマール(TATAグループ 評議員)
ヘルマワン・カルタジャヤ(マークプラス社CEO『マーケティング3.0』共著者)

モデレーター
ドミニク・テュルパン (IMD学長)

パネル・ディスカッション

テュルパン: もしここに1億ドルあったとしたら、みなさんはインドに投資しますか、それとも中国に投資しますか。

シェス: 未来の競合がどこから来るのかを理解するために、中国に投資する必要があります。今後、中国の企業がグローバル市場で競争することになるでしょう。例えば、アルカテル、ルーセント、エリクソンなどはファーウェイの台頭を理解できませんでした。10年前までファーウェイという名前すら知らなかった。ファーウェイは今、世界最大の通信インフラの会社になりました。国内市場の強みを活かして途上国に進出し、先進国でも市場を奪っており、すでに対抗する手立てがなくなっています。中国への投資は戦略的に考えた方が良いでしょう。先制するための手段と考えるべきです。一方、インドはその逆です。大きなプレーヤーはどの業界もインドにはいません。TATAの自動車だけは例外ですが、その市場は非常に大きいものの強力なプレーヤーはいません。同じ事が家電でもいえます。もうひとつ補足すると、ほとんどの新興諸国において1日の所得が2ドル以下はターゲットになりません。例えば、インドでは1950年から2000年まで金が1トンくらい取引されていました。そのうち50%が輸出、つまり移民向けでした。また金の75%が投資目的でした。現在は金に1兆ドルの価値があり、その70%を貧困層が持っているとしたら、どうなるでしょう。新しいサリーを結婚式に使うため、宝飾品として金を使う人もいます。これを西欧諸国の視点から分析すると全く違う結果になるでしょう。

テュルパン: 10年位前、オリンピックが開催される前に、中国政府に招かれて北京に行ったことがあります。その時にグローバルブランド100の中で5つが中国のブランドになると言われていました。これは実現しませんでしたが、クリネックス、アディダス、ナイキなどと共に、レノボが次のソニー、サムソンになろうとしていました。自動車においては海外の自動車メーカーが中国でシェアを広げています。何が欠けているのでしょうか。特に消費財については、何故中国のブランドは予想よりも成長していないのでしょうか。

ミルトン・コトラー: 中国は貯蓄の文化だということです。自分のセーフティーネットが必要だと考えているから、ブランドについて、現地の基盤が無いのだと思います。例えば、漢方薬などは別かもしれませんが、私達が西欧諸国で言っているブランディングとは考え方が違います。中国が今やろうとしているのは消費を増やすこと、そして貿易収支を良くすることです。さきほどシェス教授が仰ったように、ファーウェイの他にも中国のブランドはありますが、中国は西欧諸国のブランドを買っているという事が重要です。中国はドイツ車のようなドイツのブランドやAMCなどのアメリカのブランドを買っています。もし、この5年間でBMWが中国の会社になったとしても、ドイツの株価が低いことを考えると、驚きに値しません。中国企業がドイツ企業の買収を矛先として検討しているかも知れません。今後、中国は欧米のブランドを買う事になるでしょう。

テュルパン: 西欧諸国のブランドはあまり良いイメージがないと仰っていましたが、ブランドが原産国をイメージさせる事がどれくらい重要なのでしょうか。キッザニアはメキシコのブランドだとどれくらいの人が知っているでしょう。例えばアルゼンチンのランフォナも次のラルフローレン、エルメスになるかもしれません。ブランドと原産国を連想させる事は良い事なのでしょうか。

クマール: 製品カテゴリーによって変わってきます。そのカテゴリーが原産国に対してマイナスのイメージがあるのであれば、影響がでます。ある中国企業はグローバルなピアノのインハウス・ブランドをつくり、ドイツの原産国のイメージを植え付けようとしています。自社を原産国としてポジショニングする事もできますし、切り離すこともできます。例えば白物家電の市場に置いてハイアールは8%という非常に高いシェアをもっています。ハイアールは中国のブランドであるという事は重要ではありません。原産国は広告できますが、他にプラス要因があれば、それにフォーカスした方が良いです。日本企業もそうでした。日産は日産とは言わずダットサンと呼んでいた。原産国のイメージを切り離したかったためです。

テュルパン: TATAはイギリスの2つのブランド、ランドローバーとジャガーを買収しましたが、どのようなインパクトがあると思いますか。

クマール: これらの会社は20年前は数十億ドルの損出が出たわけですが、昨年20億の収益を出しました。新車販売も好調です。ブランドのDNAを買ったのです。DNAを買うために24億ドル支払いました。ここでは長期的な資本や幸運が必要でした。もし中国市場がなかったらジャガーは生き残れなかったでしょう。

テュルパン: インドのジャガーはどうでしょう。

クマール: インドでは売れていません。所得がそのレベルまでいっていないからです。中国においては、イギリス人が、ジャガーを買って手を加えるようなやり方ではなく、すべてのオプションをつけて買ってくれます。

テュルパン: インドネシアのブランドで注目すべきものはあるでしょうか。

ヘルマワン: バリという島はありますが、ブランドはありません。インドネシアのマーケティングを語る上で確認したいことがあります。消費者支出、輸出、投資、政府支出が経済の4要素と言われています。中国は輸出が頭打ちになってしまいました。内需をどう刺激するかで苦労しています。インドネシアは個人消費が中心です。一人あたりのGDPは4000ドルといわれていますが、PPPは5000ドルです。PPPが5000ドルに達するとライフスタイルを求めるようになります。ブランド消費に対しての欲求が出てきます。輸出についていうと、コモディティしかインドネシアは輸出していません。そこがインド、中国と違います。またインドネシアの政府支出もまだ小さい。新大統領はこれまでマーケティングの重要性を訴えてきたので、彼はインドネシアのマーケティングの希望の星です。中国、韓国、日本企業がどんどん入ってきています。その中でも対インドネシア投資は日本が一番で、トヨタがその代表格です。インドネシア向け、アセアン向けの車をトヨタは考えています。インドネシアが市場としては大きいですが、それだけでなくインドネシアでアセアン向けのプラットフォームの構築をトヨタは行っています。インドネシアで主力となるものを生産し、そこからアセアンに輸出しています。そのような状況で、若い世代はインドネシア・ブランドへの欲求を高めている状況です。

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