WORLD MARKETING SUMMIT JAPAN 2014

SUMMARY REPORT

テーマ 5. デジタル時代のマーケティング

グレゴリー・カーペンター(ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院 教授)
オスカー・ディ・モンティグニィ(メディオルナム銀行 CMO)
クラウス・サルミネン(エレクトロラックス CMO グローバルデジタルコマース担当 副社長)
出澤 剛(LINE株式会社 代表取締役COO)

モデレーター
星野朝子(日産自動車株式会社 常務執行役員)

パネル・ディスカッション

星野: 日産は15年くらい前に倒産の危機に直面して、その後Recognition、Reinventionのステージを経てきました。多くの企業にとっては、そのような「バーニング・プラットフォーム(緊急を要する課題)」ではなく、より小さな危機に対して対応しなければならないと思いますが、今まで緊急を要さなくともre-inventionをした企業をご存じでしょうか。出澤さんはアダプティブ・プラットフォームといって3カ月先位しか見ていないとおっしゃっていましたが、これは危機対応の必要性がないと考えているのでしょうか。では、まずカーペンター先生のお考えを伺いたいと思います。

カーペンター: 組織によっては、常にイノベーションを行う文化を持つ企業があります。それはマーケットにフォーカスし、通常の事業のやり方を常に変革させてきた企業です。「緊急を要する課題」なしに変革ができるかということですが、それは多くはありませんが可能です。効果のあった事例を挙げてみましょう。GEの場合、ジェフリー・イメルト氏がCEOに就任したとき、事業を見直し、買収ではなく、事業売却などを通して、市場での有機的成長を実現させました。既存の事業を自社のビジネスチャンスとするため、顧客を良く理解する事や、そのためのトップレベルのチーム体制も重要です。GEの場合、CEO、CMOだけでなく、外部からも人を招聘し、新しいアイデアをもたらしました。強いCEOには、人を適材適所に配置することと、その結果もたらされる変化を生み出すことが求められます。

星野: なるほど。では、出澤さんの会社のように3カ月でプランニングしている企業は、常に変化をものすごいスピードで行っているのでしょうか。

出澤: その通りです。市場の変化が目まぐるしいため、長い期間で考えることができないのです。スマートフォン自体も3年後どうなっているか分かりません。我々のサービスはスマホのデバイスに集中していますが、twitterなどウェブ上でのユーザーの反応などの分析を毎日行い、そして、ユーザーの声を最優先でサービスに反映させていきます。ですから、3ヵ月という短いサイクルでプランニングを立てて進行していくことができます。

星野: オスカーさんとクラウスさんはともにLOVEとリレーションシップについてのお話でした。クラウスさんは「日本人はあまりLOVEという言葉を使わないのでは?」とおっしゃっていましたが、日本には絆という言葉があります。Loving relationship backed by trustです。これを絆と呼んでいます。絆をつくることがデジタルの世界でいかに重要かという事が分かりました。いくつか成功事例を教えていただけますか。

オスカー: ネルソン・マンデラ氏の言葉に、「教育は世界を変える最も強力な武器である」というのがありました。私たちは2008年に自分たちの企業大学を創立しました。2008年といえばリーマンショックの年でしたが、2800万ドルを教育に投資しました。これは研究所の類いではなく、企業大学というものです。ガンジーやマザー・テレサ、アインシュタイン、ダ・ヴィンチ、アームストロングなど、この大学のな価値観を象徴している人たちです。ここは非常に調和のとれた日本のような所で、大学内に禅の庭もあります。8000人の社員やファイナンシャル・アドバイザーの研修施設と同時に、世界最大規模の価値を語る事ができる企業ミュージアムでもあります。昨年は2020の無料イベントを開催しました。ここでは、製品やサービスについて話をせず、価値観についてのみ話し合います。正確にいうと話し合うというより、有名人や価値を具現化した人を招いてイベントを開催しています。チャウシェスク時代以降のブカレストの郊外で育ち、麻薬で苦しむ子供たちを救う活動をしている道化師の方には「愛」について語ってもらいました。また、マハトマ・ガンジー氏の姪にあたるタラ・ガンジー氏を招いて平和について語ってもらいました。また、イタリア人のダンサーSimona Atzoriは腕がないまま生まれましたが、法王の前も踊りを披露するなど有名な人です。彼女には、どのようにして限界を超えるかということについても話してもらいました。ですから、銀行に来れば、毎年35000人くらいの様々な価値観を持つ人に出会い生まれ変わります。このイベントによって顧客を獲得し、クロスセリングを可能にし、評判も良くなり、売上につながるわけです。例えば、タラ・ガンジーと共に平和について2時間議論すれば、部屋を去る時には自然に質問がわいてきます。それが人の習性です。その裏には何もありません。ただ、真実で、役に立ち、元気づけ、必要とされ、人々に親切であるという必要があるのです。このようなことが上手くいくと私は思っているのです。

星野: 例えば日産自動車を考えると、無料でラブについて議論することについて、ROIはどうなるかといわれるのですが、それについてはどうお考えでしょうか。

オスカー: 今の質問に答えが入っていると思います。どうだろうと思っている事自体が、その方向に進むのだということです。商品を売る時、効率的で適正価格でなければいけません。そうでなければ変える必要があります。価値は誤摩化せません。あなたがそう言った以上、その価値をあなたに期待しているわけです。ですから、あなたは、より強く、また、新たな市場でのポジショニングを獲得するために注意深くならねばなりません。最初は人々が何も質問しないというのが普通の反応です。彼らを驚かされなければならないのです。例えば、「パッチ・アダムス」の話に感動して涙したと家に帰って話したとしましょう。「誰から招待された?」という質問に対して、「銀行から無料招待された」と応えたとすると、「銀行が愛についての劇場に招待するなんて、何か裏があるのではないか」と疑う訳です。でも、そんなのは無いのです。

星野: それで、実際に結果が出てきているのでしょうか。

オスカー: 愛は地球にいる限りは必要で、皆同じ事を感じていると思います。昨日学生とも愛について話をしました。愛なんてありふれていると思うかもしれませんが、テレビを見ても、新聞を読んでも愛について書いていません。街角で愛について話をしている人も見かけません。しかし、皆が愛されたい、愛したいと思っていて、それにはお金がかかりません。

星野: クラウスさんは、マーケターはあまり前に出過ぎない方が良いと話しておられましたが、いかがですか。

クラウス: 私が申し上げたのは、従来のマーケターは後ろにいるべきだということです。オスカーさんが言っているのは、近代的で革新的で社会的意識の高く、売り込みをするのは良くないとよく分かっているマーケッターだと思います。高い志や価値を創り出す事で、競合と差別化する事ができると思います。現在のコモデティ化が進んだ世界では、例えば、同じオートバイメーカーとして、ハーレー・ダビッドソンとホンダはお互いどのように差別化しているのでしょうか。ハーレー・ダビッドソンには多くも価値とエモーションが含まれ、それがとても重要です。

カーペンター: 大事なのは共感だと思います。みなお客さまから愛され、感謝されていることを表したいと思っています。繋がりを持ちたいのです。そのようなカルチャーが社内にあれば、隠す事はできません。そんな社内文化がなければ、どのように社外でコミュニティをつくることができるのでしょうか。内部で共感をつくらなければなりません。

オスカー: 我が社ではCMOの役割が変わってきています。マーケティングをするだけはなく、会社の役割、会社の価値を担っていかなければならなくなってきています。非常に重要な変化が今、起こっています。

星野: マーケティングの成果は、短期のセールスではなくて、リレーションシップをどれだけ積み上げたかということですね。しかし、どのリレーションが有効だったかの裏付けをとらないと、CEOやエンジニアには分からないと思いますが、何か困難だった経験があれば教えて下さい。

クラウス: 取締役会に行くといつも聞かれる事があります。いくら儲けたのかと。もちろん、価値やモデルにはリターンが必要で、それがなければ成立しません。ここで数字をお見せすることはできませんが、このような活動は売上につながります。しかし短期的なものではありません。短期的とは、十分な価値と良いサービス、短期的な売上を求める会社でしょう。オスカーの会社やエレクトロラックスは高級なサービスや品質を求める会社なのでちょっと違うと思います。しかし、投資と収益、もちろん売上でも評価します。

オスカー: 我々も3カ月ごとに測定します。マルセイユ大学でイベントの効果を測定するシステムをつくりました。イベントに関しては世界でも一番優れたROE測定方法だと思っています。これを使って毎回のイベントの評価をしています。去年のイベントからの売上は5900万ユーロありました。私の会社のファイナンシャル・アドバイザーは、自分のクライアントを招待するために、この会場のような場所に2万ユーロぐらい投資します。なぜなら、彼らは独立事業主で、社員ではないからです。イベントを会社からフィナンシャル・アドバイザーが買い取り、それをクライアントに販売します。そして、このようなホールでイベントを売り込むわけです。一定の結果が出ると投資は回収されます。また、数字についていうと、3カ月先の計画もトピックに合わせて計測しています。私たちは無料のメディアを持っているようなものです。なぜなら、自社の商品について告知するには広告スペースを購入しなければなりませんが、タラ・ガンジー女史を招待すると全ての新聞が取り上げてくれますから。銀行関係の人なら銀行について語ってもらい、新聞などで取り上げてもらえるようにします。いろいろなトピックで、それぞれ計測します。コストもかかりません。皆にとって、Win-Winとなるのです。

星野: 時間がきてしまいました。皆さんLOVEをテーマにした、フロントランナーの皆さんのお話を伺って、それを追求するにしても、差別化し、Reinventのプロセスをとっていかないと、競争に勝てなくなるというふうに思いました。ご清聴ありがとうございました。

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