WORLD MARKETING SUMMIT JAPAN 2014

SUMMARY REPORT

テーマ4. デジタル時代のブランディング

デービッド・アーカー(カリフォルニア大学バークレー校 名誉教授 プロフェット社 副会長)
アル・ライズ(ライズ&ライズ社 共同経営者)
ドン・シュルツ(ノースウェスタン大学 名誉教授)
マーク・オリバー・オプレスニク(リューベック大学(ドイツ)マーケティング 教授)

モデレーター
ローラ・ライズ (ライズ&ライズ社 共同経営者)

パネル・ディスカッション

ローラ・ライズ: ソーシャルメディアが発達した現在、企業はいろいろな問題を抱えています。多くの人にに好まれようとするのも、声を聞くことも事業する上でプレッシャーになるものです。但し、例外もあります。アップルのスティーブ・ジョブスです。彼が求めていたものはお客様が求めていたものと異なっていました。いろいろな情報があり、いろいろな好みがあります。それをしっかり聞いて、それに合わせるべきか。あるいはスティーブ・ジョブスのように自分の道をいくべきでしょうか。

アーカー: いろいろな良いアイデア、製品のソースがあります。企業の文化もあると思いますが、今の時代で最も成功しているブランドの一つが中国のファーウェイです。常にお客さまからの影響を受けて、携帯電話を改善しています。スターバックスもそうです。これがひとつの方法だと思います。もうひとつの方法は、スティーブ・ジョブスのような人がいればですが、将来の見通しをもつことです。スティーブ・ジョブスのような人は、1000万人のうちの一人です。新しいカテゴリーを10年間で5回も成功させました。ほとんどの人にとって、自分のキャリアで1回できれば良い方です。スティーブ・ジョブスはいろいろな性格を持っていました。テクノロジーをしっかりと理解していたし、将来の技術も予知できました。そしてイノベーションでいかに乗り越えるのかを知っていました。新しい製品を開発しなくてもマーケットについて直観的に、しっかり理解していました。企業の中でスティーブ・ジョブスのような力を持つ人は少ないので、一番良い方法は、製品アイデアを自分で切り開くことですが、これがなかなかできません。

ローラ・ライズ: スティーブ・ジョブスは非常にフォーカスしていました。ほとんどの企業ができないことをやり、リスクをとりました。そのパワーを持っていました。あれだけの企業をCEOがフォーカスさせることは難しいと思います。ソニーは違う道を選んだわけですが、デジタル時代にCEOになることは非常に大変です。ほとんどの人はスティーブ・ジョブスのような才能を持っている訳ではありません。ではCEOは顧客からのフィードバックをどうすればよいのでしょう。双方向コミュニケーションが今、どんどん起きているが、CEOはデジタル環境の変化にどのように対応すべきでしょうか。

アル・ライズ: 残念ながらほとんどの企業のCEOはキャリアの最終段階にあります。最終的に企業の判断をするのがCEOですが、それは良い考えではないかもしれません。スティーブ・ジョブスであれば良いのかもしれませんが、平均的な企業で行われているCEOが最終判断をするという事は必ずしも良いとは限りません。もっといろいろなCEOがいて良いはずです。マーケティングについてはますます複雑になってきている昨今、CEOであろうとトレーニングを受けていない、経験のない人がマーケティングを上手く行うことができるでしょうか。スティーブ・ジョブスのような人がいれば別です。CEOはCMOの意見を取り入れればよいのですが、CEOだから常識だろうという態度が多くの企業で問題になっています。CEOは謙虚で人の声に耳をもっと傾ける必要があります。世界で最も利益の高い企業はP&Gですが、この会社は多くのブランドを有しています。そして、それぞれが年間10万ドル以上売上を出しています。P&Gの税引後の利益率は13%です。ユニ・リーバはここまで高くありません。P&GのCEOはA.G.ラフリー氏ですが、彼は謙虚でいい人です。10分くらい話してから、「ところであなたは誰ですか」と尋ねられたことがあります。このようなタイプのCEOはなかなかいません。CEOが冷静に人の意見を聞くようにできれば、良いブランドが生まれてくるのではないでしょうか。

ローラ・ライズ: デジタル時代のCEOは人の声を聞かないと、あっという間に敵にされてしまいます。いろいろな危機の中で、自ら申し訳ないと言えるような人でないといけません。耳を傾けなければいけない一方で、ある問題に対して、これは企業の責任なのか、お客さまに問題があるのか判断する必要があります。ところで、ブランドの価値が下がってきているということでしたが、多くの企業の場合、自らその価値を下げているようですが、どう考えますか。

シュルツ: みなスティーブ・ジョブスを素晴らしいと言いますが、彼は一時期アップルを解雇されています。その後、アップルは彼を戻しました。このような人たちはマネジメント重視の人たちで、この人たちが会社を危なくしておいて、スティーブ・ジョブスを後で戻すとは、何をやっているのでしょう。自分たちの道を理解し、そして消費者を理解して、把握しなければいけない。ブランドが、「私たちはこういうことも提供している」と約束し、過剰に言い過ぎている事も問題のひとつです。問題になっているのは、あまりにも情報がありすぎると、消費者の方が賢くなってくるということです。消費者が情報にアクセスすることにより、ブランディングの問題がつくられてしまいます。再度立ち戻って考えなければならないのは、ブランドが消費者をダメにしたというが、その逆ではないかということです。

ローラ・ライズ: 多くの企業はいろいろな手を尽くした結果、ブランドをダメにしてしまったのではないかと思います。ブランド価値の衰退を是正する事はマーケティングとしてやるべきではないでしょうか。

アーカー: シュルツ教授のVAPの結果は驚くべきものでした。過去の認知率を見てみると、何年かの間に10ポイント程度落としています。企業が20から25%のエネルギーをブランドに費やしているブランドは落ち込んでおらず、ブランド・エクイティは高いという事実があります。ブランドの問題をみる一つの方向としてはエネルギーがあるのではないでしょうか。ブランドにエネルギーを注ぎ込む事ができれば、ブランドの凋落を止める事ができるのではないでしょうか。

ローラ・ライズ: 良いポイントですね。先ほどコンテンツ・マーケティングで、次のヒットにつながるという話がありました。今のものを捉えて、次のものを作り出していくということですが、これにもリスクはあります。実際のブランド構築だけではなく、リーダーとして何ができるのか、できないのか、違いがでてきますが、この違いはどこから生まれてくるのでしょうか。

オプレスニク: いろいろなマーケットによって原理原則があります。いかにお客様とのインターアクションをとるかということです。お客様とのインターアクションにはもちろんマイナス点もあり、批判も出てきます。そこはコントロールできません。これまでになかったような情報が溢れた中でお客様は生活していますが、これは企業にとっては脅威です。そこに資源を投下し、きちんと管理していかなければなりません。お客様との接点を持つ事によって、ソーシャルメディア戦略を考えていくことが大事なのです。ソーシャルメディア戦略はあるかと問われて「はい、FACEBOOKもTWITTERもやっています」という返答がよくあります。そこで、製品の話も出てきます。それをどうやってトラッキングしているのかと聞いてみると「外注している」という答えでした。ソーシャルメディアの報告書を出してもらい、そこにはポジティブな記載、ネガティブな記載がそれぞれあります。そして、ネガティブな記載について実際にどう対処したのか尋ねると、ほとんど何もしていないのが分かりました。インターネット空間の中でいろいろな会話がされています。コンサルティング会社は医療機器などをつくったり、オーストラリアでは消防士が50のコミュニティでいろいろなツールについて話し合ったりしています。オンラインでさまざまな会話がされているのに、この機材は良くないと言ったコメントに対してフォローアップしていない。それを活かさない限りは、会社にとってのメリットに繋げられません。その意味で、インターネットの世界をコントロールするということは、24時間365日そのような声に耳を傾けていくことだと思います。

ローラ・ライズ: 新しいデジタルの時代ということで、新しいブランドがでてきました。FACEBOOK、TWITTER、テスラ、スターバックス、フォルテなど、いろいろあります。いろいろある中で、これらは小さなスタートアップ企業でした。ハーバードの学生が、ハーバードをやめて立ち上げた企業で、ユニ・リーバのような大企業ではありません。このような中で、これらのスタートアップがブランディングで成功している理由は何でしょうか。

アル・ライズ: 答えは分かりませんが、デジタルの世界に生きていると、これは無視できない現実です。デジタルの世界はブランドを過小評価しているのではないかと思います。何年か前は、ブランドの名前をみて、皆が知っているブランドであれば欲しいと思って買いました。今日では名前を知ってもらうだけでは不十分です。シボレーなど、名前を知っていても破たんします。アメリカでは大手航空会社が、アメリカン、ユナイテッド、デルタ、USエアーの4つありますが、全て経営破たんした経験があります。名前だけ伝わってもそれだけでは意味がありません。どれだけ名前を知られているかではなく、生き残っているかが重要です。

ローラ・ライズ: このような起業家精神がある意味で力になっています。アーカー教授はカテゴリーをブランド化する事を今朝提唱しました。デジタルの世界では大企業は不要です。ソーシャルメディアの会社はある意味で中身がなくても、ウェブサイトさえあれば成り立つ会社です。ドットコム企業は、次のgoogle、次のFACEBOOK、次のアマゾンといった企業になりうるということです。印刷媒体は知識の民主化をもたらし、インターネットは、多くの人がデジタルツールを駆使しブランドを構築できるようになったという点ではブランディングをもたらしました。勿論賢明でなければなりませんが、多くの人が自らデジタルツールを使ってブランドをつくることができます。アーカー教授が言ったように、ただ単に戦術だけではなく、戦略がなければ成功につながらないということです。その意味でリサーチや言葉だけではなく、行動が重要なのだという話でした。これをもってこのセッションのまとめとしたいと思います。ありがとうございました。

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