WORLD MARKETING SUMMIT JAPAN 2014

SUMMARY REPORT

テーマ 1. マーケティングに期待されていること 世界の叡智と2人の経営者が語る

フィリップ・コトラー(現代マーケティングの父 ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院 教授)
デービッド・アーカー(ブランド論のエキスパート カリフォルニア大学バークレー校経営大学院 名誉教授)
アル・ライズ(ポジショニングのエキスパート ライズ&ライズ社 代表)
ドン・シュルツ(IMCのエキスパート ノースウェスタン大学メディル校 教授)
高岡浩三 (ネスレ日本株式会社 代表取締役社長兼CEO)
新浪剛史(サントリーホールディングス株式会社 顧問)

モデレーター
ドミニク・テュルパン(IMD学長)

パネルディスカッション

テュルパン: チーフ・マーケティング・オフィサーの仕事はますます難しくなってきています。単にものを売るというだけではなく、誤解されているマーケティングの役割、例えばPRとか、広告などを正しい方向にもっていく、テクノロジーなども正しく適応していくということでした。チーフ・マーケティング・オフィサーはどのような特性を持っていなければならないのでしょうか。

コトラー: アメリカには恐らく7000名以上のチーフ・マーケティング・オフィサーがいます。その中で、一番優れているのはGEのCMO、ベス・コムストック女史でしょう。7年以上にわたり、GEをどのように社会の問題を解決する方向に導くか、ガイド役として素晴らしい仕事をしています。CMOのコミュニティの中ではいろいろな雑誌、出版物があり、CMOはどんなアイデアを持つべきか、意見交換がされています。その中でいわれていることは、CMOは50%以上はマーケティングに時間をかけるべきではないということです。他の機能が重要だからです。想像力や、分析力、解析力も必要です。右脳と左脳の違いが言われていますが、一人の人間が深い思考力と想像力をどう発揮するか。CMOはその両方を必要とされていると言うことができます。

アーカー: 50名のCEOに調査をしたことがあります。組織の中で、何をやれば上手くいき、何をやったら上手くいかないかヒアリングしたのですが、商品の問題などを解決するためには、標準化、一元化よりも、成功しているCMOは、協力やコラボレーションを重視しているということが分かりました。

ライズ: CEOがマーケティングをやるべきだと言われていますが、CEOにはマーケティングはできません。マーケティングをやっている人はこれを覚えておいて下さい。

テュルパン: 最近のファイナンシャル・タイムスの調査では、CMOがCEOになれるチャンスが減っているという結果が出ました。なぜなら、マーケティング担当者が受けている財務的プレッシャーは非常に大きいからだということでした。CEOが最初にカットする予算はマーケティングだと言われていて、あたかもマーケティングにとって敵のようになっていますが、何か良い提案はないでしょうか。

シュルツ: 一番問題なのは、専門家の世界ができあがっていて、ジェネラリストが少なくなっていることではないでしょうか。ビジネスとマーケットを総合的に見ることができ、全体像を理解してまとめられる人が必要だと思います。機能的な「組織間の壁」はもういらない。マーケットはどうなっているのか、消費者はどうなっているのか、それを全てまとめられる人が必要でしょう。

テュルパン: このような「組織間の壁」はどのように防げるでしょうか。

高岡: 日本企業の多くはCMOを置いていませんが、ネスレでは最初にCMOを置きました。私自身もCMOの役割を果たしていますが、一番やっている事は「組織間の壁」をいかに取り除くかということです。ネスレのCMOはそれを取り除き、またカテゴリー間の壁を取り除こうとしています。私どもはネスカフェとキットカットという大きなブランドを持っています。消費者はコーヒーとキットカットを一緒に食べる事が多いかもしれませんが、マーケティングという点では、消費者が両方を一緒に食べているにも関わらずコーヒーのチームはキットカットが何をやっているのか、キットカットのチームはコーヒーが何をやっているのか分からないことが多いのです。CMOはこのような「組織間の壁」を取り除こうとしています。

新浪: 日本企業はマーケティングの理解が低く、マーケティングをプロモーションとしている企業が多いと思います。CMOはその点を理解した上で、テクノロジーも理解しなければなりません。CTOと同じレベルで言葉を話せる人でなければなりません。またCFOと戦って、常に予算を獲得していく必要もあります。そのためにはCMOに対してきちんとした教育も必要です。ITの知識をもち、解析も行える才能のある人はいるはずです。CMOはお客様のことを理解し、マーケットで起こっている事をよくわかっている人がベストです。

テュルパン: CMOはテクノロジーの理解が必要という話が出ましたが、変化の早い市場ではより高度なテクノロジーが必要でしょうか。また、新しいインターフェースやトレーニングが必要でしょうか。従来通りではいけないのでしょうか。

シュルツ: 私達は過去に固執する傾向があります。学術界は文献に頼り過ぎる傾向があります。数十年先の事、未来をもっと見ていく必要があります。過去のことに基づいて、将来を見ていかなければなりません。

アーカー: 最も優れたCMOとして、私はアドビのアン・ルネス女史を挙げたいと思います。彼女は情熱を持ってマーケティング・チームの変革を行っています。ITも解析もできる素晴らしい人材を数多く登用しています。このようにITと解析の技術を持った人たちを使って、マーケティングをガラリと変えている素晴らしい仕事をしている人たちがいます。

テュルパン: CMOは他のエグゼクティブの人たちとどのように関わりをもつべきでしょうか。

高岡: 正しいかどうかは別にして、実験的な段階があると思います。マーケティングに教育をする前に、持ち場をガラリと変えるショック療法もあり、それをすると面白い現象が起こります。どちらもショックを受け、どちらもお互いのやっていた事を知らなかったため、互いに学ぼうとする。すると6ヶ月後ぐらいに新しいアイデアがどこからともなく出てきます。そのようなことも必要ではないでしょうか。

新浪: 日本企業の良いところは、工場のオペレーションや研究開発部門など部門間を跨いでいろいろと経験させ、良い人材を育成していくところだと思います。いろいろな経験をさせることによって、いろいろな企業の側面や業界を学んだ上で、最終的にはCMOによって企業を牽引してもらうことが重要です。欧米ではそのような人材を外部から雇い入れる事ができます。日本の場合は、外部というやり方ではないですが、海外では、例えば製品開発のチームを招いて、その専門能力を発揮させるということがあります。日本ではCMOとしていろいろな側面を経験した人を育成するということだと思います。

シュルツ: 組織の問題は、線や箱ばかりだということです。この人に対して報告をするということは、縦であったり、横であったりしますが、それが上手く統合されていないことが問題です。
例えば中間層が良い発想をつくったとしても、その人たちが上に上がると、その発想が死んでしまます。CEOは私の発想ではないからということでお蔵入りになり、その結果、それを発想した人たちがいなくなってしまう。この解決策を得るには時間が必要です。

アーカー: チームやタスクフォースを使うのが良いのではないでしょうか。「組織間の壁」ではなく横断できるタスクフォースを作る事によって、ある程度解決できると思います。

テュルパン: 日本はチームで仕事をする事に長けていると思いますが、日本がもう一度勝ち組に入るためのアドバイスはあるでしょうか。コトラー教授はソニーのファンだったという話を聞いていますが、例えばソニーがカムバックするためには何が必要でしょうか。

コトラー: ソニーは素晴らしい会社だし、過去の業績も素晴らしかったと思います。コンサルタントとして過去の栄光をどう評価するかと問われれば、サムソンがやってきたことを教訓としてソニーが学ぶ事ができるのではないかと答えます。サムソンのCEOに会った時、IBMやGEなど世界のすぐれた企業は、どのような事をやっているのかと聞かれました。私は、社内コミッティがあり、テレビならテレビ、携帯なら携帯の企業の動きに注目していると言いました。そしてそれぞれのグループは業界の中で際立った成果を出していました。考え方も革新的で、今出しているものを凌駕する製品を3年後ぐらいには出しています。要は、イノベーティブ・シンキングということです。常に革新的なものを出していくという思考能力です。企業にとってマーケティングは2つのグループがあります。1つは戦術に長けたマーケティング・グループ。もう1つは戦略的に考えるグループです。戦略グループは、50名、100名必要なのではなく、3,4人で十分です。戦略的部門の人たちは、毎日売上があがらない云々、という競争から一切離れた中で、3年先の自分たちの企業の姿をどう思い浮かべるかという戦略だけに特化するグループです。3年先、5年先にどうするのかという青写真が必要です。

ライズ: 私が問題だと思っているのは、CEOでもCMOでも、長い時間その立場を担わないことです。BMWは39年間同じ形で広告を出し続けていて、今や世界でもっとも売れている車です。多くの企業は、意味の無い広告をバンバン出し、何をしているのでしょうか。例えば、コカコーラは、コーラの市場で120年勝ち続けている。

新浪: 2つの提案があります。まず多様性をこの国で促進しなければなりません。いろいろな価値観、多様性を受け入れる事が必要です。そのためには海外から人材を入れる事は必要だし必須です。また、さきほど仰ったフォーカスをするためには、勇気、ガッツが必要ですが、どれに的を絞るのか決めるのが大変です。子会社を1000社、2000社持っている企業がたくさんありますが、ひとつひとつの子会社を中核だと位置付けている企業も多いです。どれに的を絞るのかを決めるのは難しいです。時間はかかりますが、CMOがその決定を先導していくことになるのではないでしょうか。

ライズ: 何年も前にコダックの人たちと話した事があります。コダックと聞いて何を思い浮かべるでしょう。フィルム・カメラです。ですから、コダックというブランドをデジタルにつけるのはおかしいのです。コダックという名前イコール「フィルム」であるとすれば、デジタルにコダックというブランドをつけることはおかしいということが分かるはずです。これがマーケティングの役割です。また、ノキアは携帯電話を連想します。ですから、これに全く違うものをつけてもうまくいかないのです。

テュルパン: 日本ではYKKのようにジッパーをつくっている会社がYKK APで窓のフレームをつくって成功していますが、例えば、全く違う事をやって成功している企業の例があります。日本でも素晴らしいブランド・イメージがあります。例えばヤマハ。ピアノ、バイク、マリンサイクルなど、いろいろなものをつくっています。これはお客さまにとって価値を創造すれば、それがベースとなっているということではないでしょうか。お客様のための価値を提供する事がマーケティングではないでしょうか。

新浪: 全くその通りです。例えば、京都の会社。競争することなく、固定のお客様のためだけに価値を提供しています。これは一つの例ですが、そうすることで、マージンを多くとれ、ビジネスの持続性につながります。

テュルパン: お客さまを最初に考えることが絶対必要ですね。

コトラー: 非常によいディスカッションでした。皆さんかなり長い時間座っているので、この辺でよいのではないでしょうか。

テュルパン: そうですね。皆さん有難うございました。

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