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World Marketing Summit Japan(WMSJ)2015レポート

世界各国のマーケティング第一人者、日本を代表する経営者やマーケティング学者ら総計30人超のスピーカーが、社会や経済の発展を促すマーケティングの活用について議論する「ワールド・マーケティング・サミット・ジャパン 2015 ?デジタル時代においてグローバルマーケットで勝つためには?」が、2015年10月13・14日にグランドプリンスホテル新高輪 国際館パミールで開催された。

2014年のWMSJでのセッションは、イノベーション、新興市場、デジタルなどの三つのキーワードが並び、またマーケティングに期待されていること、より良き世界・日本をといったテーマで構成された。

今回は、三つのキーワードに加えて、アントレプレナーシップ、IoT(Internet of Things)とさらに突っ込んだキーワードが並んだ。そして、ダイバーシティ、社会的価値、マーケティングマネジメント、2020年と、より意欲的かつフォーカスされたテーマとなり、従来のマーケティングからの本質的な転換を唱えるメッセージで溢れるものとなった。

フィリップ・コトラー教授が問題提起

WMSの中心人物であるフィリップ・コトラー米ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院教授の基調講演で幕を開けた。コトラー氏は久しぶりに単著『資本主義に希望はある』を出版したが、この講演も大所から資本主義の課題とマーケティングの役割を問題提起した。

またコトラー教授は、“Digitize or die(デジタル化するか死ぬか)”と言い放ち、「日本の企業はこれまで成功を収めてきたが、急速に変化する世界において自らの戦略を再検証する必要がある。モバイル、IoTなど新しい分野をどうとらえるのか。変化に対する事業の脆弱性を分析し、将来のシナリオを導き出してこれからの方向性を考えねばならない」と日本企業の課題を指摘した。

デジタル時代のチャレンジ

?「デジタルマーケティングへの挑戦」セッションでは、モーハン・ソーニー米ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院教授が、1人が1日に163回も携帯電話やスマートフォンの画面を見ている(米国調査)いま、顧客は常にネットに繋がり、"Always-On"(休みなく常に顧客に繋がる)マーケティングが企業に求められると指摘。これまで、企業は顧客からのアテンションを得るためにキャンペーンを立ち上げては忘れ去られることを繰り返してきたが、"キャンペーン型"から"対話型"のマーケティングへと転換しなければならないと、ナイキやスカイプの例とともに説いた。

?そしてソーニー教授は、広告の露出やその広告への接触は重要ではなく、継続的なエンゲージメントをつくること、そのために企業は顧客に情報を伝えるだけではなく、ストーリーを語り「心・感情の繋がり」を生み出すことが重要になる、と指摘した。そして、顧客が何を求めているのかということを理解しそれにスピーディに応えることが大切だとし、声高に商品やサービスをアピールする従来型のマーケティングとの決別を提言した。

また、同セッションで宮坂学ヤフー株式会社代表取締役社長は、「根本にあるのは、人間は他人を理解することができない生き物であるということ。だからこそ、私たちはデータや営業活動の経験を通じて顧客を知るという努力を続けなくてはいけない」と、顧客理解の大切さを強調した。

?人間とその心について深く考えよ

?議論はデジタルにとどまらなかった。例えば、「マーケティングマネジメント新時代」セッションでは、Peppers & Rogers Group創立者マーサ・ロジャーズ氏が、TRUST=信頼について、84%のマーケターが顧客の信頼を築くのがマーケティングの主たる目的と思っており、携帯電話会社の例を出して、信頼している企業に対して消費者は月に11ドル多く支払うと、信頼の重要性を述べた。しかし、従来の信頼についての取組みではダメだとして、次のようにこれからの信頼される企業像を示した。従来の「説得力ある整合性があるブランドメッセージづくり」から、これからは「企業が言うことより、消費者がブランドについて言うことがずっと大切だと理解している」へ。従来の「ロイヤリティプログラムや乗換の低減などにより、顧客を引き留める」から、「顧客のために行動する企業となり信頼を勝ち取る」へ。

?「新興市場での成長戦略」セッションの登壇のマークプラス創業者兼CEOヘルマワン・カルタジャヤ氏は、マーケティング3.0提唱者として知られる。本誌2012年9号の特集「Wow! マーケティング」で、筆者がカルタジャヤ氏にマーケティング3.0は見方を変えるとWowマーケティングではないかという仮説を投げかけたインタビューが掲載されているが、これを発展させたWow的な考え方を説いた。マーケティング1.0ではせいぜいOKどまりだが、マーケティング3.0は顧客をWow!と言わせる、つまり期待を超える体験を提供してハートをつかむことが肝要ということだ。

?マーケティングを再定義し、経営・組織を進化させる

?またシュルツ教授は、「自社が最大の敵」として、経営と組織の問題を強調した。従来の組織図には顧客の存在がないため、縦割りの組織構造に陥ってしまい、顧客でなく商品にフォーカスし、メッセージを送ってばかりで顧客の声を聴かない、などの問題を指摘し、顧客を組織の中心におかなければならないと説いた。また、ROIをベースに過去を振り返るのではなく、企業にとっての顧客の経済価値を計り、それを向上させることを目標とするべきだと論じた。そして、リアルタイムで顧客に応える、インタラクティブなデータ中心のモデルを提言した。

?実行委員会代表であるネスレ日本の高岡浩三社長はマーケティングの役割を「顧客の問題を解決する」ことと定義した。顧客の問題解決を中心におけば、顧客の変化に敏感にならざるを得ず、組織も柔軟にならなければならない。そういう視点からは、日本の企業には本当の意味でのマーケティングが欠けているのではないかと高岡社長は指摘する。「モノづくり」で終わらず、顧客の問題を解決するというマーケティングを企業活動の中心に据えることこそが、日本企業復活の鍵になると唱えた。

?このシュルツ、高岡両氏の指摘のように、環境激変の下、企業はそのあり方を経営や組織など土台から根本的に見直さねばならない、そしてもちろんマーケティングの意義そのものから実践まで大転換せざるを得ない、という論調が今回のWMSJの底流を脈々と流れていた。これが実践できるかどうか、これから企業による差が開くことになるだろう。

?なお、日本企業には耳が痛い言葉を紹介したが、日本企業はこれまで何度も大きな変化に対して適応し、イノベーションで成功してきており、これからデジタル時代にも適応できるはず、といった期待もいくつも聞かれた。そして、小泉進次郎衆院議員はラグビー日本代表の「ジャパンウエー」を引き合いに、日本人はCan't do(できないこと)を強調しがちだが、それをCan do(できること)のカルチャーに変えることが重要だと激励した。

?コトラー教授の、マーケティングの知見とノウハウを活かしてよりよい社会の実現に貢献したいという思いが理念となったWMSだが、これからの企業の本質課題とビジョンについて骨太の議論が多数なされた意義あるイベントとなった。

 

文責:マーケティング・ホライズン編集委員、本荘事務所 本荘修二

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