WORLD MARKETING SUMMIT JAPAN 2014

SUMMARY REPORT

テーマ 7. Improving the World  より良き世界を目指して

ナンシー・リー(ソーシャルマーケティングサービス社 CEO)
バイロン・ナーサー(環境論の権威 デポール大学 教授)
スヴィット・マイアシンシー(チュラロンコーン大学サシン経営大学院 教授 タイ元財務副大臣)

モデレーター
神田昌典(株式会社ALMACREATIONS CEO&President)

パネル・ディスカッション

神田: 我々にはアイデアもあるし、アイデアを変革させるテクノロジーもあります。そして、 パラダイム やボトルネックに ついても分かってきていると思います。この2日間の中で、マーケティングのパラダイムをどう変えていけるのか、またマーケティング2.0から3.0、そして4.0へと変わるためにいろいろなアジェンダが出てきました 。私たちはマーケティング3.0から4.0へと移行していかなければいけません。それと同時に中国やアジアなど成長市場が 台頭してい る中、まだまだマーケティング1.0、2.0の段階にフォーカスしている国もあるかもしれません。ということで、マーケターとしてこのような国にどうアプローチすればよいでしょうか。変革をどのように進めていけば良いでしょうか。

スヴィット: 課題の多い質問だと思います。私たちは一方で世界の繁栄を求め、もう一方では 不公平という課題を抱えています。例えば地球温暖化などもそうですが、発展途上国と先進国の間には開発をめぐって議論のせめぎ合いがあります。先ほどのプレゼンテーションでもふれていますが、私たちは同じ地球に住んでいること、お互いにつながった世界 で生きていることは事実です。それぞれの人が行うことはプラスにもマイナスにも作用するということです。私は何かひとつのモデルや万能な方法があるとは思え ません。2つ考えなければならないことがあると思うのですが、ひとつはバランスです。それぞれの国において開発の課題があるのは当然でしょう。それと同時に同じつながっている 世界に住んでいるわけですから、お互いの相互依存性も考えなければいけません。そこではグローバルなガバナンスが必要になってくるのですが、それらは西欧諸国が支配しがちになっています。例えばアフリカに問題がある場合、ただアフリカに任せるのではなくて、お互いに問題を解決する方向にもっていくということもあるでしょう。そのような意味でのコラボレーションが 必要です。この場合、パワーは国家のパワーではなく、それ以外のパワーを発揮できるように考えましょう。国 や都市だけでなく、それ以外のパワーも発揮できるように、世界 について考えるようすることが重要です。

リー: ソーシャル・マーケティングはある意味で触媒になると思います。 例えば中国のような国は、大気汚染を削減しようとしていろいろとやっていますが、それでもバイクで ヘルメットをかぶっていない人々 を見てびっくりしました。交通事故の死亡者を考えると、例えば この状況をどう改善するかということが先決 かと考えました。生活をどう改善するかというのがマーケティング4.0。そう考えると ソーシャル・マーケティングは良い 触媒になってくれると思うのです。

神田: マダガスカルだったでしょうか、隔離された島に行った時、人々は本当に環境を大事にしているのがわかりました。自分たちの環境が地球にとっても大切であるということが分かっていて、誇りに感じてそれを守ろうとしていました。そのような 国や地域の人の方がより意識が高く、マーケティング4.0にもつながるのではないでしょうか。ある意味で、世界から観光客を呼び込む効果をもっていると思います。ソーシャル・マーケターであればこのような学習の体験を提供できると思います。

ナーサー: ここには エキスパートがいるでしょうから私より良い考えが出せると思いますが、今はエコロジカル・エコノミックスと経済で捉えることが できるのではないかと思います。例えば、東京の水道システムは素晴らしいとある旅行関係の雑誌に書かれていました。エリー湖でも水は飲めますが、かなり肥料が入っていたり、尿素などが入っているかもしれないということで、ミネラルウォーターなどが好まれています。

地域について考えてみましょう。例えばスコットランドは英国への残留が決まりましたが、私たちの国アメリカでもそうした地域主義がみられます。私の住んでいるポートランドは、知事も市長もシアトルを中心に 生活の質の向上について積極的です。昨日、安部首相のメッセージにもありましたが、各 地域の中での生活の質の向上はグローバリゼーションのなかではあまり考えてこなかったことでしたが、むしろそれが出発点になる と思います。京都のアカデミー・オブ・スクール・マネジメントのプレゼンにもありましたが、いわゆるトランスナショナルということです。グローバルとはまた違います。それぞれの国 や 地域に は違いはありますが、本当の意味でのアクションというのは、コミュニティとして何処で何を一緒にできるのかを考えることだと思います。産業革命の時代から情報革命の時代が来て、産業は大きく変わってきています。マーケットが以前とは全く違う状況になっているところもあるでしょう。地域的な経済の動き、例えば、シアトル でみられるものもその一例です。地域によっていろいろな考え方の違いはあると思いますが、そこから始めることもできるのです。そしてこのような都市化は国を変えてきていますが、例えば子供がもう車は必要ない、自転車で良い、ということで良いと思うのです。そしてこのような社会のインフラを再定義した上で、いろいろな事例が出てくるのではないかと思います。

神田: コトラー教授は日本はかつてマーケティングのチャンピオン国であったが、いまは遅れていると言われています。マーケティングの目標を4.0つまり自己実現として、またソーシャル・マーケターとして再定義していくということであれば、決して遅れているというわけでは ないと思うのです。
それがある意味で根本的な強さなのかも知れません。これは日本のことだけを言っているのではなくて、アジアも同じだと思うのです。私たちは 調和やユニティ、連帯などの考え方がありますが、私たち日本人、アジア人特有の考え方なのでしょうか。

ナーサー: 吉田会長もすばらしい哲学者だと思います。儒学の考え方を取り入れられていて、社会の一部として、ミレニアム目標にあった考えだと思います。例えば郊外に住むか都市に住むかということでなく、都市としてどれだけ反映させていくかということも大事です。例えば、ある地域 に住んでいる場合、エコロジーの観点から共通の利益は何かを考える事が重要だと思います。

神田: ところで、より良い世界、より良い企業をつくるためのみなさんの夢は何でしょうか。

スヴィット: 私は夢を持っていません。お互いに協力的 かどうかが大切です。我々の住んでいる世界はネガティブなことが多いですが、問題は2つしかありません。ひとつは自然と人間の間のバランスが崩れていること。もうひとつは人間と人間の間のバランスが崩れていること、この2つだけです。だから本当の問題は何か考えなければいけません。 哲学は、禅とか仏教とかあります。すべての宗教には答えがあります。しかし実現されていないので、その基本に戻るべきだと思います。つまり、先人達が言ってきたことに戻るべきだと思います。

ナーサー: 私には6人の孫がいますので、教育に関心があります。YKKの哲学は他人に善を尽くさないと自分に善は戻ってこないということですが、社会に対する マーケティングの仕事とは何かを我々は考えるべきです。コトラー教授は「マーケティングは社会のニーズと組織対応の懸け橋となるべきだ」と仰っていますが、我々の役割について考えるべきです。そして、われわれの孫たちに世界は変わっている ことを見せ、お互いのニーズが違うのだということを示すことが重要です。

リー: 私は夢に 期待しています。世界のすべての国々は「社会的な問題と結婚すべき」だと思います。我々は社会 の問題の多くを解決する事が できると考えます。もしマクドナルドが世界中の子供のワクチン接種という 問題と結婚すれば、子供はオンタイムでワクチンの提供を受けられると思います。すべての企業はそのような役割があると思うのです。スターバックスはリサイクリングをし、日産は運転中の「ながらスマホ 」について対処できるのではないでしょうか。つまり、会社は自分たちのお客様が気にしている事、製品、流通チャネルなどにマッチングすれば良いのではないでしょうか。私は大きな黒板にすべての問題を書き、組み合わせ ていきたいと思います。それぞれの問題について1つ会社が投資等を通じて取り組めば良いのではないでしょうか。パンパースの例など、それを認識した企業もあります。子供の睡眠 やおむつのむれなどが、紙おむつによって解消されるなど、これによって、突然死のシンドロームを減らすことにつながりました。ひとつの問題に絞れば、きちんと解決 されると思います。

ナーサー: それぞれの皆さんが この会場から出る時に、ひとつ目的を持って出て行ってもらえればと思います。自分自身に疑問を投げかけてもらえればと思います。それによって自分の仕事のやり方が変わってきます。実用的な形で考えて頂ければと思います。

神田: 私から提案があります。我々は共通の理解を得ました。我々は世界をよりよくするための手だてもあります。テクノロジーもあります。唯一必要なものは行動です。たくさんの大きなアイデアがありました。また小さなアイデアもありました。ですから皆さん、企業で動いてもらって、そのフィードバックをナンシー・リーさんに報告してもらいたいと思います。日本で、アジアでどのような改善ができたのかお知らせ下さい。日本がまた世界のマーケティング・リーダーになったとアジアの方々と一緒にコトラー教授に報告できることを願います。

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