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【DHBR】ビジネスモデルと会社モデル、2つの車輪が組織を動かす?アスクル代表取締役社長兼CEO・岩田彰一郎

DIAMOND ハーバードビジネスレビュー

ビジネスモデルと会社モデル、2つの車輪が組織を動かす
― アスクル代表取締役社長兼CEO・岩田彰一郎

2015年10月13日・14日、“マーケティングの神様”と称されるフィリップ・コトラー氏が中心となり、「ワールド・マーケティング・サミット・ジャパン 2015」が東京で開催される。同サミットで「デジタル・マーケティングへの挑戦」に登壇するのが、アスクル代表取締役社長兼CEOの岩田彰一郎氏だ。新たに参入したB to Cビジネスでも成功を収めるアスクルのトップが語る、これからのマーケティング戦略とは。インタビュー後編。(構成/加藤年男、写真/引地信彦)

DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー(http://www.dhbr.net

よい商品を確実に届ける唯一のミドルマンになる

ECマーケティングラボでは、LOHACOのデータをオープンにされているとのことですが、その仕組みをもう少し詳しく教えてください。

岩田彰一郎(以下略)?先日も54社が集まり、それこそ会場がパンパンの状態で会合をやりました。参加者はみなデジタル部門の人ですから、全員が仲間のようなものです。それぞれが既存の流通や枠組みに課題を抱えていますからね。

?最近は、大手企業でも新商品の育成がすごく難しくなっています。マスメディアのPR効果が落ちており、広告に膨大なお金をかけても半年も経てば陳腐化してしまう商品も多い。新商品を長期的に評価して、市場に残しておけなくなりました。メーカーによる価値の創造がどんどんと薄まっていく構造になっているのです。

?しかし、ネット上であれば、そういう商品がファンとなるお客様をつくり、リピートを含めてきちんとアプローチできる。また、同じような価値観をもった人を連れてくることもできます。

?たとえば、すごくいい商品で固定ファンもできているのに、既存流通からは定番を外された商品があったとします。その商品を市場に残すために、ネットの広告に「LOHACOで買えます」と入れて、そこからもう一度ランディングしていく。そうすれば、店頭配荷率を気にする必要もなければ、商品ロスもありません。

?商品を長く市場に残していくという意味で、LOHACOを活用した取り組みは、メーカーにとっても新しいマーケティング戦略になるはずです。

メーカーと一緒になってECの新たな可能性を探っているわけですね。

?ECのこうした新たな可能性は、逆に言えばマスコミ・マスセールスの終焉だと思っています。いまやマスコミ・マスセールスは非常に効率が悪くなっていますし、流通が巨大化して、そこにモノをきちんと並べることにも多大なるコストがかかるようになりました。その結果、売りたい商品をなかなか育てられない。それならばECで商品を育てたほうが効率的ですし、分散化しているいまのお客様のニーズにきちんとフィットした、新しいビジネスモデルが構築できます。

岩田彰一郎(いわた・しょういちろう)
アスクル代表取締役社長兼CEO
1950年、大阪府生まれ。1973年、慶應義塾大学商学部を卒業後、ライオン油脂(現ライオン)入社、営業を経て商品開発に携わる。1986年、プラス入社。文具事業本部副本部長などを務め、主として文具の商品開発を担当する。1992年アスクル事業推進室長、1995年アスクル事業部長を経て、1997 年、プラスがアスクル事業を独立させたのに伴い現職。

 ECマーケティングラボのメンバーは、ある種の同志意識を持って、そうしたことを全員で考えていこうとしています。単独でやるよりも協働したほうがお客様に対する価値が高くなるだろうと、メーカー何社かでのコラボレーションも増えています。先日も、ネスレさん、P&Gさん、コカコーラさんで、3社の商品をまとめて買えば安くなるというセールを実施しました。

?ビッグデータの分析手法に、お客様が買い物するとき、どの商品とどの商品とが距離が近いか、一緒に買う確率が高いかを見るアソシエーション分析があります。たとえば、ある商品を買ったお客様に、それと近い距離にある商品を紹介するという使われ方がされていますが、メーカー同士が協働することによって、EC内で別の商品にお客様の目を移行させる確率が高くなるのです。

?このように、マーケティングにも地殻変動が起こり始めています。そのような時代の大きなうねりを感じている経営者は増えています。既存の大型量販店が高いシェアを持ち一般市場を占有している状況では、メーカーはコストばかりがかかって効率が悪化しています。しかし、これを打開するパラダイムシフトの兆しが、ECマーケティングラボにはたくさん出てきていますよ。

せっかくよい製品をつくっているのに、それが生活者に届いていない。メーカーに寄り添う取り組みは、岩田さんの想いが反映されているように感じます。

 そうですね。アスクルのスタート自体がそうでしたし、私にはもともとメーカーのマーケターの血が流れているので、メーカーにとってベストなプラットフォームをつくりたいという気持ちは強く持っています。我々のような流通業は、つくり手の想いを邪魔せず、サポートすることによって新しい価値創造を行い、共存共栄を図る業態なのです。

?我々は流通を「唯一のミドルマン」と呼んでいます。メーカーがみな自力で直販を始めたら効率が悪くなってしまうため、ミドルマンがお客様のためにも必要です。そこにたくさんのお客様が来ることで、メーカーはさまざまな自社製品をアピールでき、お客様は商品をチョイスしてワンストップショッピングができるようになるわけです。

?ここには、ワンストップになることで物流効率がよくなるからECが成立する、という構造の転換もあります。ECにとっては物流がキーポイントで、物流を制する者がECを制します。だが、それぞれがバラバラにやったら配送コストが非常に高くなってしまう。即日配送を日常化するには、集まって一緒に届けるミドルマンの存在が欠かせません。それがLOHACOであるということです。

?ECマーケティングラボのように、我々は商品を売ったあとをブラックボックスにするのではなく、できるだけ透明化して、メーカーとお客様との間を邪魔せず直接つなげるようにしています。それでいてプラットフォーム機能はちゃんとしているというのが、新しいミドルマンの役割ではないでしょうか。

権威で人を動かす組織にはしたくない

オフィスを拝見して、岩田さんはアイデアが生まれてくる組織を意識してつくられているように感じました。社内環境づくりではどのようなことに配慮されていますか。

?おっしゃる通りで、オフィスはすごく考えてつくっています。会社のオフィスとは、そこでどのようなマインドセットができるかの舞台装置だと考えているからです。

?たとえば、巨大な組織を動かすオフィスでは、役員フロアのフカフカの絨毯や、どでかい机が舞台装置となります。あらゆるものを動かす権威として、そうした装置が必要だからです。外資企業では個室がステータスとなっていますが、これも装置の1つですね。

?その点、我々はきちんとしたコンセプトを持っています。アスクルの社員だけでは何もできないので、お客様やメーカーなどのお取引様もちろん、パートの方も含めた力が必要です。私はそれを「大アスクル」と呼んでいます。そして、大アスクルはみな平等であることを原則としています。

「私はもともと、組織にヒエラルキーをつくらないようにしてきました。権威で組織を動かすのではなく、リーダーシップを発揮してビジョンで動かしなさいということです」

?そのため、私の席も社員と同じ大きさで、彼らと同じ木の椅子に座っています。役職についても肘付きのイスになるなんてことは一切ありませんし、昔から私はオフィスの真ん中に席を置いています。社長室を持ったことはないんですよ。パーテ−ションもありませんからすべてがオープンで、私がいま何をしているか、社員がいま何をしているかが全部わかるようになっているのです。

?レイアウトでは細部にも気を配っていて、机の幅も通常より短くしてあり、後ろに座っている人の背中との距離もあえて狭くしてあります。当社がまだベンチャー企業だった時代に、スタッフのテンションが最も上がった密度にしているのです。チームのみんながその場で立ち上がれば、すぐに会議ができる状態にしています。

?私はこれを「ラグビー型経営」と呼んでいます。何か起こったらラグビーのモールのように人だかりができる。当然、周囲にも緊張感が伝わります。それを見ている人は、いつでもそのモールに突っ込んでいけるように準備をするわけです。そのためには、ボールがどこに転がっているか、いま何が起こっているかを全員がわかっていなければなりません。本来の役割があったとしても、すべてを捨ててタックルにいったり、モールに突っ込まなければいけない事態も起こるからです。

?たとえば、ごくたまに物流センターがうまく動かなくなることがありますが、そのときは本社の社員が100人、200人規模で物流センターに徹夜で入ります。それはお客様への「明日来る」約束を守るためであり、そうした意識を社員全員が持っているからです。緊急時には、役職も性別も隔てなくみな嬉々として現場に入って、そのときは相当テンションが上がっていますよ。

?私はもともと、組織にヒエラルキーをつくらないようにしてきました。権威で組織を動かすのではなく、リーダーシップを発揮してビジョンで動かしなさいということです。アスクルの管理職は結構大変だと思います(笑)。

管理職に説得力を持つリーダーシップがなければ、部下はついてこないということですね。そうした考え方は何から学ばれたのですか。

?私の頭の中には、車に例えると2つの車輪があります。

?1つの車輪はビジネスモデルです。ライオン時代、ライバルである花王の丸田芳郎さんが販社をつくりました。1対1の人の力では花王さんに絶対に負けないと思っていたのに、それ以降、まったく勝てなくなった。丸田さんは、同時に物流の効率化を行い、浮いたお金を広告宣伝費に回しました。要はビジネスモデルで「勝てる構造」をつくったわけです。経営者の仕事の1つは、きちんとしたビジネスモデル、勝てる構造をつくることだと思っています。

?もう片輪は、会社モデルです。アスクルでは社内に怒鳴り声が響くようなことは一切ありません。昔から意識してそうした雰囲気をつくってきました。上司がガンガン叱責する会社は、たしかに短期では伸びるかもしれませんが、そんなことはやりたくない。みんなが幸せな気持ちでいて、自由にワイワイやって勝てる会社になりたいと思っています。

今年の「ワールド・マーケティイング・サミット」では、デジタル部門に登場されます。「デジタルマーケティングへの挑戦」がテーマに掲げられていますが、どのようなお話をされる予定でしょうか。

?最終的には「Consumer is King」ということですね。前回お話した通り、ビッグデータを含めたデジタル・マーケティングによって、いろいろなことがわかりますが、そこに依存しているだけではゴールにたどりつけません。ワールド・マーケティイング・サミットでも、そうしたお話ができるのではないかと思います。

 

前編:データ分析のみに頼っているようでは、価格競争から価値競争にシフトできない

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