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【DHBR】国家単位のマーケティング戦略から、 都市ごとの戦略が必要な時代になった―ネスレ日本代表取締役社長兼CEO・高岡浩三

DIAMOND ハーバードビジネスレビュー

国家単位のマーケティング戦略から、 都市ごとの戦略が必要な時代になった

― ネスレ日本代表取締役社長兼CEO・高岡浩三

2015年10月13日・14日、“マーケティングの神様”と称されるフィリップ・コトラー氏が中心となり、「ワールド・マーケティング・サミット・ジャパン 2015」が東京で開催される。カウンシル代表を務めるネスレ日本代表取締役社長兼CEOの高岡浩三氏が、マーケティングにどのような発想の転換が求められているのかを語った。高岡氏のインタビューは前後編の全2回。(写真/引地信彦)

DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー(http://www.dhbr.net

 

日本型のマーケティングを輸出しても通用しない

高岡さんはかねてより、現在のマーケティングの手法を見直す時期に来ていると提言されています。その真意を聞かせてください。

高岡浩三(以下略)?これまでの15年、20年は、新興国市場に進出しさえすれば、彼らの成長に伴って企業も成長できる時代であったと言えます。しかし、BRICsのような巨大市場の成長が踊り場にさしかかると、その動きと比例するように企業の成長も鈍化する現象が生まれました。これはグローバルに展開するすべての企業が直面している課題です。ここには新たなマーケティング戦略が必要となります。
?
?しかし、日本で成功したマーケティングをそのまま輸出しても成功はありません。戦後から高度成長までの日本の経済発展を考えると、非常に特異な形で成し遂げました。いびつだと言ってもよいかもしれません。メインバンクから資金を借り入れ、それをもとに稼いだ利益を株主に還元することなく、設備投資に振り分けることで発展したからです。

?私はこれを「ニッポン株式会社モデル」と呼んでいます。この仕組みによって、わずか50年の間に一億総中流社会を実現し、国全体が豊かになりましたが、このような国はきわめて例外的な存在です。

高岡浩三(たかおか・こうぞう)
ネスレ日本株式会社代表取締役社長兼CEO
1983年、神戸大学経営学部卒。同年、ネスレ日本株式会社入社(営業本部東京支店)。各種ブランドマネジャー等を経て、ネスレコンフェクショナリー株式会社マーケティング本部長として〈キットカット〉受験生応援キャンペーンを成功させる。2005年、ネスレコンフェクショナリー株式会社代表取締役社長に就任、2010年、ネスレ日本株式会社代表取締役副社長飲料事業本部長として新しいネスカフェ・ビジネスモデルを提案・構築。同年11月、ネスレ日本株式会社代表取締役社長兼CEOに就任。主な著書に『ゲームのルールを変えろ』(ダイヤモンド社)がある。

?たとえば、中国について見ると、たしかに日本の高度成長期に似た現象がありました。その結果、北京や上海などの都市部に住む人々は豊かになった。しかし、そこから一歩外へ出ると、非常に貧しい生活を送っています。つまり、中国の大都市は先進国の成熟市場モデル、それよりやや劣る都市は新興国の成長モデル、さらにその先には成長の基盤すら整っていない状況にある。言い換えると、ひとつの国の中で3つの市場があるということを意味します。

?中国も、ロシアも、ブラジルも、国家単位での成長はほぼ限界を迎えています。一部の都市が富み、それ以外は取り残されるのは明白でしょう。裕福な都市には高付加価値の製品を、そうではない都市にはコモディティ製品を提供するなどのマーケティングが当然必要です。
もはや、1億総中流社会の日本の常識を前提に、国家単位でマーケティングをしていては、世界では戦えないのです。

?国としての成長には陰りが見える一方で、都市にはまだまだチャンスがある。ただ、そこにマーケティングがなければ単なる宝の持ち腐れです。たとえば、フィリピンではいま日本のラーメンがブームになっています。たとえフィリピンの首都・マニラに住んでいる人であっても、明らかに日本人より所得は低い。しかし、日本と価格は一緒です。それでも満員にできるということは、そこにお金を払うニーズが明らかにあります。

?GDP別で世界の都市をランキングにすると、トップ100の中には、ゾーンAOA(アジア、オセアニア、アフリカ)に含まれる都市が45もある。それらの都市のGDPを合計すると、ゾーンAOA全体に占めるGDPの実に40パーセントになる。軽視することなどできない数字でしょう。そして、ランキングの第一位にはいまだに東京がいます。都市単位のマーケティングに成功することができれば、企業には大きなチャンスがあるはずです。

?マーケティングの定義にはさまざまなものがありますが、その根本は問題を解決することに尽きます。企業は、何が問題かを考える必要があり、そこに解決策まで提示できた企業がイノベーションを起こせるのです。言い換えれば、マーケティングのない企業にイノベーションは生み出せません。

イノベーションとはやや曖昧な概念でもあります。高岡さんはどのように定義されますか。

?私が考えるイノベーションの定義とは、ビジネスモデルそのものを変革することはもちろん、新しいサブカテゴリーをつくることです。目の前の商品開発はもちろん重要ですが、それだけでは何も変わりません。既存のカテゴリー内での新製品はイノベーションに当たらないのです。昨年のワールド・マーケティング・サミットでデービッド・アーカー教授がおっしゃっていましたが、まったく同じ考えです。

?社長に就任した当初から、私は「B3イノベーション」を提唱しています。B3とは「Bigger」「Bolder」 「Better」の頭文字です。日本では、1年、2年の売上げへの貢献にとどまる新製品でもイノベーションとして取り上げられることがありますが、右肩上がりで10年間売上げと利益が増えていくものでなければ、イノベーションを起こした商品とは言うべきではないのです。

?レギュラーコーヒーというカテゴリーは、基本的にはローストしたコーヒー豆の粉末をパッキングして、それを店頭に並べて売るのが一般的ですが、ネスレ日本の場合、それを自社のコーヒーマシン専用のカプセルとして販売しています。この新しいセグメントをつくり、そのなかでネスレ日本のシェアは約90%です。また、キットカットの「オトナの甘さ」シリーズについても、甘さを控えた大人向けのチョコレートという新しいセグメントつくった例です。

?また、「ネスカフェ アンバサダー」のビジネスモデルは、まったく新しいものです。マシンの性能を模倣することはできるかもしれませんし、コーヒーの味を似せることもできるでしょう。しかし、アンバサダーを長期にわたり動機付けしながら、会員組織として運営するノウハウは他社にありません。それは外からは見えないので、模倣されにくいのです。トヨタ自動車の「カンバン方式」のように、表面的な仕組みを開示したところで、優位性を失うことはありません。

?このように、新しいビジネスモデルや新しいサブセグメントをつくれたものだけが、イノベーションだと思います。こうした取り組みは価格競争にさらされる可能性も低いため、長期にわたり売上げと利益を生み出すことができるのです。

イノベーションは集団からは生まれない

イノベーションを体系的に起こすのは難しいと言われていますが、何をすべきなのでしょうか。

「何人もが集まって議論すれば、その集団で発言力のある人間に反対することは難しい。たとえ自分の発言に自信を持っていたとしても、言えない状況が生まれることは仕方ないでしょう」

?社内でイノベーションを起こし続けるためには、リーンスタートアップの考え方が必要です。言い換えれば、みずからアイデアを生み出し、仮説検証を繰り返しながら大きな成功に結びつけることが重要なのです。そのためには、アイデアはもちろんですが、仮説を持つことと、それを実行する力が欠かせません。それを練習する場として社内で開始したのが「イノベーションアワード」です。

?イノベーションは集団では生まれません。個人からしか生まれないと私は考えています。何人もが集まって議論すれば、その集団で発言力のある人間に反対することは難しい。たとえ自分の発言に自信を持っていたとしても、言えない状況が生まれることは仕方ないでしょう。これは日本人に限らず、外国人も同じですよね。

?そのためイノベーションアワードには、アイデアを持つ個人で参加する形をとりました。仲間が必要であれば、自分で探せばいい。ネスレのスイス本社もこの仕組みを評価しており、アジアに広げたいと考えているようです。

ネスレグループとしてもイノベーションに課題を感じているのでしょうか。

?そう思います。人口が爆発的に成長する市場において、イノベーションはあまり求められません。既存の市場でトップシェアを確保することが、すなわち成長を意味しているからです。

?長い歴史と強力なブランド力があり、同じ地域で長期的に展開することによって大きなシェアを維持できていますが、製品やサービスそのものにわかりやすい画期的なものがあるかといえば、必ずしもそうではない。どちらかといえば、新興国の成長モデルを前提にしていることは事実だと思います。

?先日、ネスレのスイス本社に対して、ゾーンAOA(アジア、オセアニア、アフリカ)のマーケティング責任者はシリコンバレーの動きを視察すべきだと提案しました。大企業こそ、ベンチャー企業のようなスピード感を学ばなければ、変革は生まれないでしょう。

?私は、この時代に日本法人の社長を務めていることを非常に幸運だと思っています。完全な成熟市場における厳しいマーケット環境において、利益ある成長をするためにはどのようなモデルが必要かを考える機会になりました。ヨーロッパの先進国は同じ状況を迎えたいま、彼らに対して一つのモデルを提示できたと思っています。

?いまは製造業を中心に日本企業が好調だと言われていますが、為替の変動で利益を生むのは本質的ではありません。ひとたび円高に触れれば一気に崩れ落ちる可能性があり、決して安閑としていられないと私は考えています。ネスレ日本についても、好調を続けている状況にありますが、けっして現状維持ではいけないという危機感は常に持っています。

後編:変えるべきことを当たり前に変革する、 そこに難しさなど微塵もない

 

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